はじめに

今回も断っておきたいのは、バスクランしたい方は、どうぞやって下さい。

「やりたい」、「やる」と決めたのならご自身の責任でやるべきと思います。

ただし、だいぶ暑くなってきたので、体調に十分注意を払って下さい。

緊急事態宣言も解除されるところもでてくるので、そろそろやめてもよいかもしれません。

SNSでバスクランを広げるような動きをすることについては慎んで頂きたいです。

逆に、バスクランしている人を非難するような活動もやめましょう。

バスクランをめぐる動き

山中教授はHPを更新しています

http://www.covid19-yamanaka.com/

バスクランは

「休日の皇居や大阪城など、多数のランナーや散歩をされる方が集中する場所を念頭に置いて提案」

されたものということです。

この書き方をすると、これまでの流れを踏襲するなら

・「休日の皇居や大阪城」でコロナ感染が生じた

・「休日の皇居や大阪城」のランナーは危険である

という論調がSNSやメディアで生じかねません。

この書き方をするなら、「休日の皇居や大阪城」で感染が生じたという実例を挙げるべきです。

ご自身の影響力やメディアの性質をあんまり学んでおられないなと感じます。

山中教授はさらにHP更新しており、バスクランの注意点に関しても言及しています。

これに関してはよい取り組みと思います。

参考までに、コロナウイルスの感染性やsocial distanceに関してわかりやすく述べて下さっている方のfacebookページを紹介しておきます

Facebook 石井 好二郎 氏

https://www.facebook.com/ishii.kojiro?__tn__=%2CdCH-R-R&eid=ARBssWeYBDD1TTT0fjOi_moUawHDoHkuvGhdXffL5vV7MkGBUfg-uFFBZzJY7ODSa81nQgMfARTCYE3f&hc_ref=ARS5wKWHadmTiofw39L6Dnr4iKGpUwxHYcvQr9MX9ZvZdF3xVoidLJD_D7GAzh-e5IU&fref=nf&hc_location=group

客観的根拠に基づいて物事を考え、整理する

バスクランに関して前回 

で述べたのは

・そもそも屋外の活動では感染は成立しないのではないか

・バスクランを行うことが感染予防につながる科学的根拠はまだない

ということです。

読者の方は「はいでた、また根拠。ホントにしつこいやっちゃな」と思われるかもしれません。

たしかにそうなんですが、これは医師の誰もが持っている基本的な姿勢と考えて頂ければ幸いです。

私たちが患者さんのお役に立とうとするときに参考にするのは基本的には論文やガイドライン(専門家が集まって作られたもので、現状のデータから導かれる最も妥当と考えられる診断法や対処法など)です。

客観的根拠のある方法で診断して根拠のある方法で病気のmanagementを行うのが私たちの役割です。

現代の医師はEBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づいた医学)のトレーニングを受けています。

日常で行っているEBMとは、具体的には、適切な論文やガイドラインを見つけ、その情報を活かすことです。

論文やガイドラインを読むこと自体は基本的な英語と専門用語さえクリアすればそう難しいことではありません。

ただし、そこから得た情報を、自分が今診ている症例に活かしてよいのかの判断、これは難しいです。

この情報の活用の難しさについては後日述べたいと思います。

医師には、基本は根拠に基づいた考え方、行動をすることが求められます。

自身の経験、予想、勘、感情も挟む余地が全くないとは言いませんが、根拠で埋められない部分を補うにすぎません。

逆に、ご自身やご自身のご家族が、客観的根拠のない医療を施されるとしたら、どのように感じますか。

バスクランが広まった背景には、命に関わる未知のウイルス・病気への恐怖や不安が大きく影響していると感じます。

たしかにそのような感情は私も持っているのですが、科学はそういった感情とは無関係の存在でなくてはなりません。

それが故に、何が危険か、何が危険でないかを科学的に明らかにすることで、我々を未知のものへの恐怖や不安から解放してくれると考えています。

今回行われたのは効果のはっきりしないマスクの代用品を紹介することでした。

本来行うべきは人々の不安のもととなっているランニング等屋外スポーツの、コロナ流行下での安全性の検証へ取り組むことではなかったでしょうか。

バスクランが何を生み出したのか

実際に今、バスクランをしている人で、バスクランが感染予防に効果があると考えている方はどのくらいおられるのでしょうか。

私の推測に過ぎませんが、多くのバスクランナーは感染予防というよりはむしろ「周囲の目への配慮」としてバスクランをしている方が多数ではないでしょうか。

バスクランは感染者を減らすのに役立ちましたか?

バスクランされている方はバスクランしていない人を見て、どのような気持ちを抱きますか?

バスクランしない方はバスクランしている人を見て、どのような気持ちを抱きますか?

非ランナーはバスクランしている人と、そうでない人を見てどのような気持ちを抱きますか?

いずれもネガティブな答えが返ってくると思います。

今後は感染も落ち着いてきて暑くなってくるのでバスクランは下火になってくると思います。

しかし、今後も感染流行が再燃する可能性はあります。

解除された緊急事態宣言が全国的または局地的に再開された場合、このままだと、またバスクランが推奨されることになるのでしょうか。

バスクランの是非については早急に科学的な検討が必要です。

バスクランの社会的な側面

当初より、バスクランの目的はマナーやエチケットであると言われていました。

実際、山中教授も「ランニングエチケット」として勧めています。

医学的に効果がないとしても、社会的に効果がある(周囲を安心させる)という意見に関しては否定しません。

ただし現時点で「エチケット、マナー」という言葉を使ったのは私は極めて不適切と思います。

エチケットもマナーも、耳にはやさしいですが、同様の振る舞いをしない人を非難する、一方的で客観性・中立性を持たない言葉です。

・エチケットやマナーを守る人=良識人

・エチケットやマナーを守らない人=悪者

という図式が簡単に成立してしまいます。

屋外でのコロナウイルスの感染性が明らかでない現状においてそれを使ってしまうのは時期尚早です。

そのときはちょうどよい言葉が見つかりませんでした。

私がバスクランの広がりに感じていた違和感を今、言葉で表すなら、まっとうな根拠を持たない同調圧力です。

エチケットやマナーという言葉の裏のに隠された、見えない圧力により、バスクランは急速に広がりました。

単純に「ランナーへのネガティブな感情を少しでも減らしたい」と考えてバスクランをはじめた方も多くおられると思います。

そのような思いやりは成熟した大人として素晴らしいし、非難しようがないと思います。

ただし、情報の質をよく確認すべきであったし(これに関しては後日詳しく)、バスクランを広めようとする活動は結果として同調圧力そのものでした。

エチケット・マナーによってもたらされたもの

「エチケット・マナー」という言葉を使うのではなく「このような緊急事態に際しての最大限の配慮をするならば」等の表現が適切であったと私は考えています。

そして、何度も言いますが、ランナーに対して不安や恐怖を持っている人のためにするべきことはバスクランではなく、科学的な検証でした。

しかし残念ながら「バスクラン=エチケット、マナー」という考えと同時に「ランナーの飛沫は感染リスク」という固定観念は広まってしまいました。

一度広まった固定観念を覆すことは困難を伴います。

恐怖や不安で味付けされているだけに、覆すのは余計に困難が増します。

政府期間やランニング関連の組織の見解

信頼されるうるガイドラインの条件として私が考えるのは

・科学的・客観的考察がなされている

・提言の根拠となる論文や研究が明記されている

・科学的根拠が乏しい事柄に関してはその旨を記載する

・推奨する事柄毎に異なる「やらなければいけない度合い」を明確にしている

例:

「3密をさける」「手洗いをする」:必ず行う

「バスクランを行う」:やりたければどうぞ、ただし科学的根拠はありません

それでは各組織の屋外バスクランに関する提言を確認しましょう

・ランニング学会(4/29)

https://e-running.net/0350topics_no19.html

 エチケットとして、マスクまたはフェイスガード等の着用をお勧めします。

口や鼻をマスク等で覆うことで、咳やくしゃみ、呼気による飛沫拡散の可能性を低くします。
汗を拭うために無意識に口や鼻、目を触らないよう気をつけてください。
マスク等をしても息苦しくないぐらいのゆっくりとしたペースで走ることを心がけましょう。

その後ランニング学会の代表の方にマスクをエチケットとした科学的根拠について質問しました。

「より安全性の高い実施方法、より危険性の少ない実施方法」について、現時点で、もっとも合理的と思われる実施方法を提言した、とのことです。

そもそも理が示せていないのに合理とは、、、?

あなたの中の合理と思われるものを他者に客観的に伝えてこそ合理では、、、?

そもそも屋外バスクランのevidenceが乏しい現状では、バスクランをする選択肢を提示するのであれば、しない選択肢も提示しておくのが中立の立場と考えます。

私はこの団体の提言はあまり信用できないと考えています。

・スポーツ庁(4/27)

https://www.mext.go.jp/sports/content/000050039.pdf

・厚生労働省「新しい生活様式」(5/4)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

・JTU 日本トライアスロン連合

トライアスロンを愛するファミリーの皆様へ(5/12)

https://www.jtu.or.jp/news/2020/05/12/22170/

いまいちなランニング学会の提言を紹介してはいるものの、マスクの効果が科学的に証明されていないことを明記しており、現存する提言の中では一番科学的な検証が行われているものと感じます。

根拠としているそれぞれの出典も明記されておりガイドラインとして公正・公平さ目指して作成されたと推測されます。

このガイドラインが作成できるということは、、、

もしかしたらJTUの主催するトライアスロン大会のいくつかは今年無事に開催されるものがあるかもしれません。

大阪城大会、開催できたらよいですね。

以上の提言、ガイドラインから以下のことを考えました。

私は世論、感情論、同調圧力に与してバスクランに関してマナーやエチケットという客観性のない言葉を軽々に使った組織の信頼度は低いと考えています。

自身で物事の妥当性を客観的に検証する力を持たないからです。

例の論文をそのまま引用したものは論外中の論外です。

また、発表される日付が後になれば、バスクランの推奨度が低下していることが、一つの傾向としてみられます。

世間のランナーへの固定観念が覆されるかは別にして、最終的にはバスクランは推奨されなくなると考えています。

まとめ

・客観的根拠に基づいた思考、行動は不必要な不安や恐怖をとりのぞく

・社会的にみた場合、周囲への配慮という点ではバスクランは評価される側面は少しあるかもしれない

・バスクランが広がる際に使われたエチケット・マナーという言葉には客観性はなく、強い同調圧力が隠れている

・色んな組織から屋外バスクランに関するガイドラインが出ているけれど、厚労省とJTUのものが現時点では一番まとも

次回でバスクラン篇は一旦終わるつもりです。

著者

シロスケ

人生100年時代を皆さんと健康に楽しく生きるシロスケのブログです。 脳神経外科専門医、脊髄外科学会認定医、大阪在住、2児の父、昭和60年生、2019年10月から本格的にマラソン、トライアスロンのトレーニングを開始。 目標はマラソンサブスリーとIronman World Championship出場です。

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